個々の症状やニーズに則したこまやかな診療、がモットー
●28年前、日本初の体外受精に携わった草分け的存在
ベア−タ・クリニックは、神奈川県の横浜駅西口から歩いて5分、静かな通りに面
したビルの2階に位置しています。あわいグリーンで統一された院内は、シンプルで清潔感あふれる印象。不妊外来のほか、生理不順や更年期障害などの一般外来も行っている産婦人科です。妊娠が成立し、安定期に入ったら、希望の病院または関連の病院(けいゆう病院、済生会病院、新横浜母と子の病院、川崎市立病院ほか)を紹介してもらえるシステムになっています。
院長の吉村愼一先生は、大学卒業後の1982年にドイツのエアランゲン大学に留学し、ドイツ人4名とのチームで体外受精を習得されました。その技術は78年イギリスに始まり、アメリカ、オーストラリアに続いて、ドイツでも研究・確立してきたばかりの治療法。そして帰国後、整っていない環境の中で、器具や培養液のオーダーといったゼロからの準備を行い、日本ではまだ未知のものであった体外受精に、見事、成功をおさめたのでした。「当時の倫理規定では、体外受精は両卵管がなくて妊娠できない人に限られていました。全身麻酔で約1時間の手術を行った以前から考えると、たった5〜6分で採卵ができてしまう現在の医療技術は夢のようですよね」
こうして日本初の胚移植によって男児が、さらに日本初の凍結胚移植によって双子が誕生。これらの妊娠・出産に携わり、日本の体外受精の草分けとなった吉村先生は、不妊治療をライフワークにする決意をされたそうです。
●一つ一つていねいに診ることこそ、不妊治療の基本
同クリニックは平成8年に開業。ベアータ(BEATA)という名前は、ラテン語の形容詞に由来しています。英語では“神に祝福される”という意味を持つBlessedつまり、“最高の幸せ”を指すんです。「現在の体外受精の妊娠率は35%。さらなる妊娠率のアップをめざすためには、もちろん新しい技術へのトライは必須です。でもそれ以前に大切なのは、基本を忠実に守ること、1つ1つをていねいにみること。ともすると忘れがちな基本ですが、そうであってこそ、不妊で悩むかたがたに最高の幸せをもたらすお手伝いができるのだと確信しているんです」と語る、吉村先生。
待ち時間が極力少なくなるように、との完全予約制。「なるべく時間をさいて話をじっくり聞きたいから」と、初診の人には比較的すいている平日の午後に来てもらうことが原則です。
通常、体外受精を行う場合、ここでは通院のみによる治療を行っています。さらに、吉村先生自らがレイアウトした院内は、動線(人の動きの流れ)が考慮された造り。処置後に安静室で休んだら、外来の患者さんと顔を合わせることなく帰宅することができるようになっています。患者さんの立場にたった病院造りは、随所にあらわれているのです。
●個人個人に合った治療法で妊娠への道を開く
雑誌やインターネットを駆使した情報収集が簡単にできる今日この頃。不妊治療の現場から、そのメリットとデメリットを指摘されていました。「自分で検査を受けて、自分で原因を知って赤ちゃんを作ろう、と治療に前向きな人がふえています。ところがその反面
、ほかの人がやっていることをうらやましがって、誤解を生む人も多いのです。“ステップアップ”という言葉を使うと、“アップ=上、状態がよくなる”というイメージを与えがちですが、そうではありません。排卵誘発をする方がレベル的に高い、というわけでもないのです。自然周期でも、体外受精や顕微授精でも、結局、ゴールは同じ妊娠。方法として並行しているものなんですよね。気持ちはわかりますが、人には個性があり、おのおのの適応があります。それを度外視して、パターン化した教科書どおりの治療を行うのはラクですが、たいせつなのは患者さん個人個人に合った治療法なんです。それを見きわめるのは医者なのですから、疑問は
ネットに向けるのではなく、直接、医者にぶつけてほしいですね」
不妊は、妊娠という本道から少しだけはずれてしまった状態。みんなを本道に戻してあげたい、そう語る吉村先生でした。